満員電車で「動かない男」に遭遇した話

社会

電車という乗り物は不思議だ。

言わずもがな超パブリックな空間である。

数え切れない程の「他人」と狭っ苦しい空間に入れられるんだから、それなりのルールがあって、時代に応じてそのルールも変化してる。(気がする)

ただ、電車という輩はそんな単純な乗り物ではない。(物事を簡単に決めつけてはいけない)

そう。

電車はパブリックな空間であると同時に、乗車するそれぞれの個人は超プライベートな時間を過ごすという矛盾が生じている。

これは厄介だ。

個人個人の捉え方で、このバランスは如何様にでも操れる。

そのバランスが崩れた時、互いの電車思想にズレが生まれた時、問題は発生する。

今日はその一部始終を紹介したい。

 

朝の埼京線

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今日の混雑度は常軌を逸していた。

月曜日だからなのか?それを差し引いても異常くらいの混雑である。

それにしても、月曜日の混雑度が高いのって何故だろう。ネットを見ても腑に落ちる情報はなかった。

・月曜は定例会でフレックスしないから単純に人が多い

いやいや、ホントかねぇ。

・週明けはみんな少しずつ動きが鈍いから遅延が起きて混雑する

この解には「なぜ動きが遅いのか?」という新たな疑をはらんでいる。信憑性も無さそうだしなぁ。なんだかなぁ。

と、混雑する車内で呑気な回想にふけっていた。混んでる車内ではあるが、ここまでは平和だったのだ。

 

その男は「突然」現れた

僕はドア寄りの座席前に立ち、つり革を掴んでいた。混雑度はかなり厳しいが、まぁこのくらいは想定の範囲。

スマホ電子書籍を読むくらいの余裕はかろうじて残されていたのだ。

赤羽駅であの男と出会うまでは。

 

電車は赤羽駅に停車した。

ドアが開く音が聞こえると、降りる人が一旦はけたので混雑が和らぐ。車内に残った人は揉みくちゃになった身体をほぐすように軽く伸びをして体制を整えているようだ。

ただ、その目には「ここからの混雑にも耐え抜かなければならない」という意思表示がはっきり伝わる。

自分も頑張ろう。そう言い聞かせた。

ホームにはこれから乗車する群衆が見える。

その光景から混雑が増すことは疑いようもないことがわかった。

 

僕はスマホを片手につり革に掴まっていたのだが、ふいに異様な気配を感じてスマホから目を離した。

最後に降車する人をかき分け、ものすごい勢いで車内に突入する男の姿が目に入ったのだ。その風貌は「スーツを着た長州小力と形容するだけで、誰もが納得するほどのクリソツ具合。

小力は一目散に車内へ駆け込み、迷うことなく僕の隣にやって来た。

「これはまずい」

直感でそう感じたのではなく、自分の隣に来るまでの道中で周りの人への体の当て方が尋常じゃなかったのだ。

そして僕の隣に到着すると、まず両手を上げてつり革を下げている鉄のポールを掴んだ。そして、足を大きめに開いて「仁王立ち」のポーズをとる。目線はまっすぐ前を見ている。

そして、乗客がぞくぞくと乗って来たタイミングで、小力は全身に力を入れて硬直したのだ。

「死んでもこの場は動かない」

全身でその意思を他の乗客に伝えている。ひと言も喋らずにここまで自分の意思を人に伝えられるのは才能だと思う。

そして、混雑率が「推定200%」を超えても尚 、小力は姿勢を崩さずに、両手をピンと伸ばした仁王立ちで他を圧倒した。

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※出典:混雑率の推移

 

満員電車で「動かない人」の周りでは何が起きるのか

ドアからは、新しい乗客が次々に入って来るので、必然的に人は電車の奥に流れることになる。(自然界の法則)

ただ、僕の隣で仁王立ちをしている小力は自然界に縁がない様子。いくら群衆のビッグウェーブで人を流し込んでも、小力という取水堰が全てを受け止めてしまう。

小力よりドア側に立っている僕は、ここから堪え難い時間が始まることになる。

ドアからは群衆によるビッグウェーブが勢いを緩めることがない。

ただ、僕の隣の「スタンディング仁王」は全く動じないのだ。

そんな状況なのだから、間に挟まれた僕が凄まじい力でプレスされるのは想像に難くない。

もう、身体が痛い!息が苦しい!密着した小力の身体から伝わる体温が熱くて気分が悪い!!!

さらに言うと、小力は自分のポジションを守るために、ビッグウェーブと反対の力で若干押してきていた。(もはや完全に逃げられない)

リバウンド王のスクリーンアウトの如く、鉄壁のポジション取りで他を寄せつけない。

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横目で小力を見てみたが、額からは汗が流れてる。

小力も疲れるだろうに。

一瞬、同情めいた感情も生まれたが、もしや風貌から察するに、小力は何らかのトレーニングも兼ねているのか?そうだとしたら、この状況はむしろ充実した時間に過ぎないのか?

とてつもない敗北感である。

「ちょっと奥に詰めてもらえませんか?」

という言葉をかけることすら躊躇してしまう小力の圧倒的な存在感に完敗である。

結局、僕と小力は同じ駅で降りることになった。(たまたま)

小力は降車の時も力強く周りの人を押しのけてドアから飛び出していった。

後に残ったのは小力の体温と身体中の倦怠感。

得るものは何もなく、気力と体力は大きく失われた。

 

やはり電車という乗り物は不思議だ。

こんな事態に遭遇したら、どう対処したら良いのだろうか?

もし明日も小力と出会って同じ事態が起きたとしても、今の自分には適した策が見つからない。

明日の電車が不安だ。